睡眠時無呼吸症候群について

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠中に何度も呼吸が浅くなる、もしくは呼吸が一時的に止まってしまうことで、日常生活にさまざまな悪影響を及ぼす病気です。睡眠時無呼吸症候群は英語で「Sleep Apnea Syndrome」と表記されるため、頭文字を取って「SAS(サス)」とも言われます。
SASの患者さんは、日本で約500万人以上と推定されていますが、そのうち(後述する)CPAPの治療を受けている方は約50万人程度(10%)に過ぎません。

SASは生活習慣病の合併リスクや、眠気による交通事故のリスクを増加させるため、最悪の場合に心筋梗塞や交通事故によって死亡するケースも少なくありません。

重症の場合、予後は極めて不良という報告が多いですが、適切な治療を受けた場合は軽症例と予後がほぼ同等であると考えられています。よって、「少しでも当てはまりそう」という方は早期発見・早期治療を行うためにも是非ご参考にしていただければ幸いです。

※SASには(1)閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS: Obstructive Sleep Apnea Syndrome オーサス)(2)中枢性睡眠時無呼吸症候群の2つのタイプがありますが、今回はSASの大部分を占めるOSASについて説明します。

OSASの原因は?

OSASの主な危険因子をまとめました。

肥満 首が太い 男性 中年 喫煙 飲酒 睡眠薬 扁桃肥大 小顎 鼻づまり

肥満

肥満の方は正常体重の人と比べて、OSASの発症リスクが4倍高いと言われています。空気の通り道である上気道の周辺に脂肪が沈着し、外側から気道を圧迫することで無呼吸が起こります。

首が太い

首回りが、男性:43cm以上、女性:41cm以上の場合、発症のリスクが増えます。

男性

性別に関しては、男性では2倍のリスクがあります。男性の方が上半身に脂肪がつきやすいことが原因と考えられています。

中年

年齢に関しては、中年以降でOSASの発症リスクが増えます。加齢とともに舌を支える筋力が低下し、舌が喉に落ちやすくなるためです(これを”舌根沈下”といいます)。

喫煙

喫煙は気道の粘膜に炎症やむくみを引き起こすため、気道が狭くなり、発症リスクを3倍に増やすと言われています。

飲酒・睡眠薬

アルコールや睡眠薬を摂取・服用すると、舌や顎の筋肉の緊張がゆるみ、気道を圧迫することで無呼吸の頻度が増加します。

扁桃肥大・小顎

扁桃肥大や小顎などの形態異常があると、気道が狭くなるため、OSASの発症リスクが増えます。特に日本人は欧米人と比較して、顎が後退しているため、肥満がなくても発症リスクが高いと言われています。日本人は同じBMIレベルの欧米人と比べると、OSASの有病率が高いことがわかっています。

鼻づまり

アレルギー性鼻炎や鼻腔内の形態異常(鼻中隔弯曲症や鼻茸など)などで口呼吸をしてしまう場合も発症リスクが上がります。鼻づまりで鼻からの気流が減って、のどを広げる圧力が弱まることで気道が狭くなるためと考えられています。

SASの症状は?

続いてSASの症状をまとめました。

寝ている間
・大きないびき ・呼吸が止まる ・息苦しさを感じる
起床時
・頭痛 ・すっきりしない ・熟睡感がない ・からだが重い
日中
・強い眠気 ・だるさ、倦怠感 ・集中力の低下 ・記憶力の低下 ・いらいらする ・抑うつ傾向 ・性的欲求の低下 ・活動性の低下

これらの症状に当てはまる方は、SASかもしれないので注意が必要です。
なかなか気づきにくい症状もありますが、ご家族やパートナーからの「いびきがうるさい」「呼吸が止まっている」という指摘で自覚される方々が多くいらっしゃいます。いびきを指摘された方、またはお一人暮らしの方でこれらの症状を自覚している場合は、受診して一度検査を受けられることをお勧めします。

SASによって引き起こされる合併症とは?

(1)高血圧

OSASと高血圧の合併率は高く、OSASの約50%が高血圧を合併するというデータがあります。OSASでは夜間の無呼吸や低酸素状態によって交感神経が亢進され、高血圧をきたします。血圧上昇や血圧変動を繰り返すことで、長期的には心臓・血管系に負担がかかり心筋梗塞などのリスクが増える可能性があります。

一方で、複数の降圧薬を必要とする高血圧を合併したOSASに対してCPAP治療を行うと血圧コントロールに有効であるという報告もみられます。

(2)糖尿病

日本、アジア、欧米において2型糖尿病患者さんの約3~4人に1人は中等度以上のOSASを合併するというデータや、OSASはインスリン抵抗性を悪化させることが報告されています。

(3)不整脈

不整脈と一口に言ってもさまざまな種類がありますが、OSASは脳梗塞の原因となる心房細動という不整脈の発症リスクを増加させます。また、OSASの治療を行うと心房細動の発症が抑制されることも報告されており、心房細動を合併したOSASでは積極的に治療を検討します。

(4)心臓突然死

重症OSASでは心筋梗塞や致死的な重症不整脈などを合併し、心臓突然死の頻度が高いことが報告されています。

(5)交通事故

SASの主な症状である眠気によって交通事故のリスクが増加するため、ご自身の問題だけではなく社会的にも影響が大きい病気と考えられています。SASによる居眠り事故の発生率に関したデータは研究によって結果はさまざまですが、いくつかの研究データを統合した解析の結果、OSASは交通事故のリスクを2.5倍上昇させることが示されました。

SASの検査

心当たりのある患者さんには、ご自宅での「簡易検査」をご提案いたします。ご自宅で検査機器を装着して一晩眠っていただき、呼吸状態(無呼吸、低呼吸の有無)、血中酸素飽和度、脈拍数などを測定します。お手続きと検査方法はとても簡単です。

<簡易検査の流れ>

(1)診察・問診
自覚症状などからSASが疑われる場合、簡易検査を提案させていただきます。検査をご希望される場合、ご自宅へ検査機器を配送します。
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(2)自宅で検査
専用機器(気流センサー・酸素飽和度センサー)を装着していただき、一晩検査を行います。検査終了後、担当業者に専用機器を郵送していただきます(着払い)。

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(3)データ解析・結果説明
SASの診断と重症度判定は、「AHI(Apnea Hypopnea Index)無呼吸低呼吸指数 :睡眠1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数の合計値」という指標で判断します。
この検査でAHIを測定することができるほか、血中酸素飽和度の推移なども測定します。
担当業者に検査機器が到着してからデータ解析が完了するまで約1週間かかるため、郵送日から8日後以降で結果説明が可能です。

SASの治療

(1)CPAP治療
中等症~重症OSASの第一選択治療として、CPAP治療(Continuous Positive Airway Pressure;陽圧持続呼吸療法:通称 シーパップ)が選択されます。鼻(または鼻と口)に装着したマスクから圧力を加えた空気を送り込むことで、気道の閉塞を防ぎ無呼吸を改善させる治療です。他の治療法と比べて治療効果が高く、日中の眠気の改善や高血圧・不整脈などの改善が期待できます。
簡易検査で測定したAHI≧40の場合に医療保険で治療することができます。AHI<40の場合、患者さんの状況に応じて精密検査入院(1泊2日)をご提案させていただきます。

(2)マウスピース
マウスピースで下顎を前に移動させることで、舌が落ち込むことを防ぎ、気道の閉塞を予防できます。主に軽症~中等症のOSAS、もしくはCPAP治療の継続が難しい方が適応となります。マウスピース治療を希望される場合は歯科医をご紹介させていただきます。

(3)手術
慢性副鼻腔炎や鼻中隔弯曲症、鼻茸による鼻づまりがOSASの原因である場合、手術が選択肢になります。一般的には、鼻・副鼻腔の治療だけではOSASは改善しないことが多く、侵襲的な治療でもあるため、まずはCPAPやマウスピースから開始する場合が多いです。

(4)減量・生活習慣改善
CPAPやマウスピースなどはあくまで対症療法であり、治療の根幹は減量になります。肥満の方は食生活の見直しと適度な運動を心がけましょう。その他、禁煙・節酒・睡眠薬の適正使用も大切です。気になる点があればご相談ください。

費用はどのくらい?

簡易検査

3割負担の場合、2,700円になります。

CPAP治療

3割負担での自己負担額は、診療費やCPAPのレンタル料を含めて1ヵ月あたり約5,000円になります。治療が安定していれば、2~3ヵ月毎のご通院も可能です。

毎月5,000円となると気が引ける方は少なくないかもしれません。しかし、SASを放置した場合、命に関わる危険性もあるため決して高くないと思っていただきたいところです。CPAP治療と併行して減量に成功できれば、最終的にCPAPから卒業できる可能性も十分にあります。

症状にお困りの方、治療や費用面で気になる方がいらっしゃれば、是非一度ご相談ください。

院長 角田昇隆

秋葉原内科シンシアクリニック
〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町 1-6-5 アキバ・トリム B1F
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